なすっちのレース日記 ──なすっちの断末魔番外編──

 
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 7月8日。高知県某所。
 早朝だというのに、すこし強めの風が吹き抜ける。工事現場の旗が威勢よくはためき、その背後の青空をはぐれ雲が流れてゆく。天気予報を賑わしていた台風が大きく逸れていったというのに、まるで嵐の前のような静けさがそこにはあった。どことなく浮ついた雰囲気、あわただしく駆けまわる日焼けした若者たち、金属の触れあう音、オーニングの下から現れる純白の船体……
 新たな一団が眠そうに目をこすりながらその場所に現れた。なにやら急がしげに準備を始める。辺りにただよう緊張がまたほんのすこし高まり、それに呼応するかのように彼らの表情にも厳しさという影を伴った活気と輝きが生まれていく。
 やがてセールのシバーする音が熱気を切り裂き始めるころには、彼らの緊張感はピークに達する。知りたいのは、ただひとつ……
 一番速いのは、だれだ。
 一番強いのは、どこだ。
 たったひとつの勝利を巡り、冷徹な欲望と、熱き知略が、走りはじめる。
 2000年四国インカレ、開幕……
 
 
 ……と、いうことで、個人戦の予選がありました。正式には四国地区学生総合体育大会ヨット競技兼全日本学生ヨット選手権個人戦四国水域予選(たぶん)です。総体は団体の成績が、個人戦の予選として個人の成績がつきます。
 以下のレース日記は27475のレースの様子です。

 
<大会まで>
 大会本番までのまるまる2ヶ月間、まともな風が吹かず、せっかくのニューセールのチューニングがいまいち進まず。また技術的にも苦手の強風が克服できないまま、不安を抱えた状態での高知入りとなってしまった。それでも微風域でのチューニングと走りは高知の海でも確認することができていた。
 ところが人生そう甘くはなく、大会直前に台風が接近、初日はもしかしたら強風という状況が予想された。
 
<レース1日目>
 やはり強風だった。とりあえず応急処置的にリグテンションを上げ、アフトプラーをきつめに効かせて走ることに。不安はあるが、ニューセールに期待も大きい。
 クルーは高木。出艇前の風待ちで相撲をやらせると見事に負傷。これまた不吉な予感がただよい始める。その予感は見事に的中するのであった。
 そして海上が10m/sを切った様子となり、出艇。浜を離れた時点で、強風セッティングの最終確認に入る。
「じゃ次はアウトホールを引きなおしてんか」
「はい」
 ギュッ、ばきん、するする、バタバタバタ……
「……切れました」
 アウトホールのワイヤーがブームの中で切れた。
 あっというまにブームの半分ほどまでメインが抜けてきてしまうが、その状態でギリギリ上って浜までなんとか帰りつく。すでに全艇出艇完了している。なんとか間に合わせてみせる、という決意のもとに必死の修理。最初はワイヤーを使って修理するつもりでいたが、パーツの不足で断念。とりあえずブームエンドにシートで縛り付けて出艇する。陸上サポートの人達、ありがとう。同じくジブにトラブル発生の3353は間に合わなかったようだ。スペアマストに手をやいているようで気の毒だった。
 そのままレース海面にフルブースト最大戦速で直行。ギリギリでまにあうが、結局応急処置で縛ったアウトホールが5センチ近くも緩み、始めの2R苦しまされることになる。強風のなか、限られた時間では修理は不可能であった。
 
<1R>
 そんなこんなで、集中することもままならず、第1レーススタート。北メインの風がときおり大きく西へ回る風、公式記録では7m/s。なんとか間に合ったが位置取りまでは十分にできず、下有利ラインの上イチから出ることになってしまった。ただし、タイミングはジャストに近く、加速も十分。その走りで中盤あたりまで順位を回復。その後は振れにあわせて左右に大きくタックを返しながら無難に上マークへ、フリーでは順位変動はなかった。この一週目で左やや有利か、と確認する。2週目も極端なコースは引かず、6位でフィニッシュ。
 正直、このレースはあまり考えて走ることが出来なかった。アウトホールの壊れたメインセールでいかにロスを少なく走るか、その調整についやしていた。結局、ジブリーダーを少し後へ持ってきて、パワーモードオンリーで走ることに決定。それでもクロスの走りに関してはトップ集団とまったく勝負できないレベルでもないな、と感じた。
 
<2R>
 風速変わらず、やはり左振れの傾向が感じられるようだ。後になって記録をみても風向はじわりじわりと確実に左まわりをつづけていた。下有利のライン、というよりは集団よりも左へ行きたいという気持ちから下3,4艇目あたりから出る。目の前の艇がリコール。おそらくウチはジャストスタート。しかしその後のコース取りがよくなかった。左一発を避けて右へ返したのち、「なんとなく」右へ伸ばしてしまい。左につっこんだ艇団に大きく水を空けられる。その後も目立った走りはみられず、最終8位。フリーの遅さが気になり始める。
 正直、このレースに関してはあまり覚えていない。あいまいなコース取りを注意する。
 
<3R>
 このレースの前に、昼食のための着艇があって、そこでアウトホールを修理することができた。そこから出艇した時点でだいぶ風がおちていた。公式記録では3m/s、北メインだった風が西に振れきっている。下有利ラインの下4あたりからジャストスタート。今大会はなぜか全艇引き気味のスタートで、比較的楽に位置取りをすることができる。ほんの少し走ると、さらに大きく左へ振れて風が落ち始めた。すぐにタックしてポートタックでフリートと併走。左に5〜7艇ほどがつっこんでおり振れを拾ってよく走っている、右にいってしまった艇団もついてきているがやはり苦戦している。ちょうどその両フリートの中間を徳大の3艇が走ってくる、この時点で75は少し頭を出していたが、ここでさらに幸運なことに、その後落ちてゆく風が75の周りにだけ残り続けている。結局上マークで2位に10艇身以上の差。煮詰められた微風チューニングと風が落ちることを予想してタックの回数を少なくするコースを引いたクルーのおかげであろう。
 あいかわらずフリーが遅いが、これだけ差があれば……ん?後の連中がエライスピードで……うひゃー、後からブローが入りやがった。一気に差を詰められるも、結局下マークでも5艇身ほどの差をキープ。
 そして1下回航。徳大27475、本大会もっとも無様な瞬間がやってきた。470艇団にまともにつっこみ、ブランケットを嫌った75は何も考えず即タック……する必要はまったく無かったのである。コースはポートタック一本でオーバーセールとなるものであった。左からのブローを拾ったこともあったが、その時に限って470に下から突き上げられてさらにオーバーセールを助長。ここでコース短縮、2上でフィニッシュ。結局3艇に抜かれ、身内の徳大28431と争った末の4位という無様さ。涙。
 敗因は問題のタックの必要性の有無をクルーに確認しなかった自分にある。反省。不安定な風は北風と南風が喧嘩してるもので、事前の予想どおりであった。
 
<4R>
 3Rの最終レグで風がぐるりとまわり南風となる。思っていたより良い風が吹き、公式記録では5m/s。あいかわらず強かったうねりがさらに勢いをます。
 風はさらに左へ振れ続けると予想。潮も考えあわせると、やはり先に左をとるべきであろうと決定。下4あたりからジャストスタート。風が安定してきたとたん、やはり上位艇がしっかり前を走ってくる。風は大きく左へまわり、ポートロングの上りに。目測で5位前後から、クルーのウェイトも生かして一気に前に出ることができた。我々のすぐ下にいた艇2艇が先にラインにのったが、そのすぐ後について3位で回航。後は少し差がある。上−サイド−下は無難に走って順位をキープ。おそらく目の2艇がつぶしあったおかげでついていけたものと思われる。2上り。たしか順位変動なし(かな?)。そして最終下り。やはり問題アリなランニングで2艇に抜かれ5位に落ちる。
 
<1日目終了>
 陸に帰ってみると4位タイだった。1位に5点差、2位に2点差、3位に1点差。無難にシングルでまとめてきたのが効いているらしい。ほんとに某他大学スナイプ乗りに指摘されるまで、順位のことなん考えもしていなかったので、これにはびっくり。意識しないように意識する(?)。団体では前後ともに約30点の差。無理な逆転ねらいはしないことをチームで確認する。アウトホールの本格的な修理はここでは不可能と判断。風は弱くなると予想していたので、応急処置のままでいけるだろうと考えた。
 
<5R>
 風は弱いがうねりはかなり残っている。うねりに揺られてバランスを崩すと一気に裏風をもらう。風が今日は始めから南よりである。左からブローが入ってくるのがはっきりと感じられる。これはまた左に回っていくに違いないと、クルーと確認。流れの強さと向きが場所によって変わる潮もあるし、やはりまた左有利だ。
 スタートラインはやや下有利な程度であったが、左に行きたかったので、また下3あたりから出る。周りの艇よりもすこしずつ左に位置するように心がけつつ、1上を2位で回航。前後ともにかなりの差がある。苦手のフリーは順位キープに専念。それほど差は変わらず。2上りも全艇同じ様なコースを引いたため、変動なし。上−下は少しチャンスが巡ってきた。かなり離れてまわった3位艇がかなり早めにジャイブ。潮は東からかなり強く流れている。それでは、帰ってくるのが大変だろう、ということで無視することに決定……しかし、その船がよい風を拾ってよく走っている。それを見たわけでもなかろうが、1位艇がジャイブ。すぐに再びジャイブして戻ってくるがその間にすこし差を詰めた。もしかしたら我々を押さえるためのタクティクスだったのかもしれないが……。しかし結局大差は大差。前後ともかなり離れたフィニッシュで2位。
 
<6R>
 風速変わらず、風向が190度に。やはり左へまわり続けている。ゼネリコ後、黒旗スタート。これまた下4あたりから出るが、前の船のバックウインドをややもらってしまったため、なんとなーく右へ。あれだけスタート前に左に行くと確認していたハズなのに……。今回のコースはクルーと2人で引いていたので責任の半分は自分にあるわけで、悔しい。結局風が大きく左に振れ、また沖に出ると向きと強さの変わる潮流にもやられて、最下位ちかくで1上を回航。ここでもフリーの遅さがたたり、集団から抜け出すことができない。上りのコースも全艇左を使うので大逆転も難しい。結局、ほんの1つか2つ順位を回復しただけで最後は14位。
 絶対ふた桁だけはたたくまいと思っていたのに、なんであんなコースを引いてしまったのか。あのときはスターボード艇の処理に手間取っているうちにタックのタイミングを逸したと感じたが、明らかな判断ミスだった、艇速にも自信があったのだし、恐れることなくスターボ艇を下で受けて一刻もはやく左へ戻るべきだったのだ。
 なぜ冷静な判断ができなかったのかと思い返せば、ゼネリコになった瞬間にモチベーションが一気に不安定になってしまっていた、と思う。情けないことだが、5Rを終えた時点で、総合順位が気になり始めていた。たったそれだけのことで、あんな精神状態になるとは。
 ちなみに、このレースでは31が海面研究の成果を生かして左へ突っ込み、見事ぶっちりでピンを獲っている。お見事。フリー、特にランニングの速さには目を見張るものがる。よく考えれば31スキッパー中山はまだ3年生。今後が楽しみである。
 
<7R>
 そしていよいよ最終レース。これまた情けないことに6Rの大叩きにショックを隠しきれない75は、総合順位を綺麗さっぱり諦めて「とりあえず、がんばりましょう」状態で望む。結局それがよかった。
 スタートは予定通り、下3あたりからジャストスタート。そのまま一気に左へ、さらに集団より少しずつ左に位置するように細かいタックを繰り返しながら走る。予定通り。クロスの艇速はやはり悪くない。ある時は上ってフレッシュウインドをもぎ取り、ある時は落とし気味に走って下艇をかぶせにかかる。楽しいクローズホールドだった。左振れも手伝って、上マークを僅差の2位で回航。この上−サイド−下は75も頑張った。なんとかくらいついて走り、それほど差を広げられずに2上りにはいる。下マーク回航後のコース取り、最初のスターボでよく走り。1位艇に追いつく。先にタックしてきたその艇とマッチレースの予感。左を譲りたくなかったので、1艇身前を切った後かなり緩めのルーズカバーをかける。そのままポートタックでスピード比べかとおもいきや、敵もさるもの、こちらのタックにあわせて再びタックしてた。結局左へ逃がしてしまうが、すぐに後を追い艇速勝負に持ち込む。最後には再び左をとりもどしてスターボレイラインにマークから5、6艇身ほどのところからアプローチする。この時、風下を併走していた2位艇との間に470がスピンを上げて通過していく。しかも2艇も。そしてやや先行して、お互いの動静をうかがう。そして上マーク手前5艇身から白熱の3連続タイトカバー! 大きくゲインして最終下りレグに入った。
 ところが、やはり今回の75はフリーが走らない。しかも冷静さを欠いたスキッパーが相手のブランケットをかわす事しか考えておらず、結局スピード勝負を挑んだ形になって見事にカチ抜かれる。しかも東へつっこんだ艇にも1艇抜かれ、最後は3位。レース終了後、「相手艇とマークの間に位置せよ」との指摘を受け、おもわず「あっ」と声がでた。しまった、んな基本的なことさえ忘れてしまっていたとは。自分の精神的な弱さを痛感した。
 
<レース後>
 レースを終えて着艇すると、陸で待っていた予備クルーがエラい興奮している。どうやら6Rで大叩きしたにもかかわらずまだかなり上位にいる可能性があるらしい。冷静に点数計算をするまでの数秒間、おおいに興奮させてもらった。短い夢をありがとう。
 結局、最終順位は42点で4位だった。1位−34点、2位−38点、3位−41点、である。さすがに悔しさを感じた。その悔しさには2種類ある。1つに全日出場枠である2位まであと4点だったこと。もうひとつは1位から3位までを1つの大学に独占されたことである。そうそう、某ぼくと名字の同じ君、いつも表彰式ですこしだけドキドキさせてもらってます。ありがとう。
 だがしかし、「ヨットに『〜たら』『〜れば』は無い」というのが僕のポリシー。今回の成績は僕の全ての実力と幸運を総動員した結果である。ここは徳大の久方ぶりの定位置脱出と2位奪取を喜ぼうではないか。
 まぁ順調に積み込み、閉会式、田北の引退セレモニーを終了。OBの方々からありがたいアドバイスをいただく。少し興奮気味だったので冷静な忠告が心にしみる。感謝。
 
 
<成績>
 スナイプ級のレースごとの成績変動をグラフにしてみた。そもそもヨットレースちゅうのは7Rの総合得点で競うんだからこんなん意味ないじゃん、ってのもごもっとも。でも、ほら、面白いっしょ(^^;
 シリーズ序盤の強風で沈みかけた徳大が後半の微風レースでもちなおし、最終レースで愛媛大学さんを奇跡的に逆転し、2位を奪取している。劇的だ。グラフからも、成績表からも松山大学さんの安定ぶりは見て取れる。むう……
 ここで終わる予定だったが、グラフにすると面白いのでついでに個人戦の成績も6位(一般的には入賞)までつくってみよう。──よしできた。重い(50kb)ぞぉ。ちょっと見づらいけどご勘弁を。
 うおお、すっっげー。激戦や。
 前半は入り乱れての大激戦。んー、しっかしなかなか前には出させてもらってないなぁ。5R終了時点の2位タイが最高成績かぁ。
 お?6Rに注目。第5レースで2位タイだった3艇がそろって撃沈してる。てゆーか、その3艇のなかではウチが一番よかったんじゃん、6R。14位叩いてご臨終だとおもってたけど、他の2艇も……15位と17位。なるほど、なにがおこるか分からんもんやねぇ。その隙をついて松大N/F組が一気に2位浮上。そのまま2位を確保して全日行き。んー、ドラマチック。那須/高木/加堂組、7Rでさらに1つ順位を落として表彰台落ち。んんー……い、1ポイント差。
 
<総括>
 面白かった。
 一足先に引退めされた田北さん、おつかれさま。


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